2011/07/01

お手紙:前編




side:ユーノ





 ここ最近、僕にはひそかな楽しみがあった。

「こんにちは、ユーノ君!」
「いらっしゃい、はやて」

 闇の書事件から、一年。すっかり足も治り、管理局の捜査官見習いとして頑張るはやて。
 彼女は夜天の魔導書、リインフォースが残してくれたデータをもとに、新しいユニゾンデバイスを作りたいといった。
 今僕が開拓している無限書庫へとやってくるのはそのためだが、僕の楽しみはそれではない。

「はい、これ! 資料と一緒に貸してくれた本、おもろかったでー。これの続きみたいなのはあるん?」
「ちょっと見つからないなぁ……」

 はやてが渡してくれた資料や本を確認する。確かに、先週貸し渡したものだ。
 そしてその本の間に一つ封筒が挟まっているのを見て、僕は顔を綻ばせた。

「続きっていうわけじゃないけれど、似たような話ならいくつか見つけたよ。資料と一緒に持っていく?」
「ほんまに!? せやったら、帰りにいっしょに持っていこうかなぁ」

 僕はそれにわざと気が付かないふりをしつつ、はやてのためにユニゾンデバイスのデータを集める。
 彼女もまた、封筒については何も言わずに僕が資料を集めているのを待っていた。
 そして、彼女に渡す分の資料を集め、一緒に童話などの本を渡す。

「それじゃあ、ユーノ君。また今度な?」
「うん、はやて。また今度ね」

 はやては僕が渡した資料を大切そうに胸に抱いて、笑顔で無限書庫を後にした。
 僕は僕で、彼女の背中を笑顔で見送る。

「さて、と」

 僕は資料の編纂などが一段落したのを見計らい、はやてが返してくれた資料に挟まっていた封筒をポケットの中に忍ばせ、無限書庫で僕が使っている資料をまとめる部屋へと入った。
 元々は司書長のために用意されている部屋らしいけど、無限書庫の正式な司書は僕だけということで、今は僕の部屋だ。
 部屋の中にだれもいないことを確認して、僕は部屋に扉に鍵をかける。
 備え付けのソファーに腰かけ、ポケットから取り出した封筒の封を破り、その中に入っていた手紙を取り出した。

「さてと、今日は何が書いてあるのかな……?」

 手紙の中に書いてあるのは、ここ一週間で何があったか。
 はやてが思ったこと、考えたことが、少女らしい丸文字で紙片いっぱいに綴られていた。
 ここ最近の、僕のひそかな楽しみ。
 それは、はやてとの手紙のやり取りだ。
 普通なら、こういうことは言葉でやり取りするのが当たり前だと思う。
 でも、僕はこの形が好きだった。なんだか、だれにも内緒で話をしているみたいで、心が躍るんだ。
 こんな形で、はやてと文通をすることになったきっかけは些細なことだった。
 無限書庫の開拓は、時として重労働にもなる。そのせいで、僕は一時期疲労困憊でよく倒れる状態になっていた。
 そんな感じで倒れていたある日、僕の枕元に差し入れと一緒に一枚の紙が置いてあったのだ。
 紙を置いた主は、当時ユニゾンデバイスを作りたいと無限書庫にやってきていたはやてだった。
 紙に書いてあったのは、疲れたらすぐに休むこと、きちんと食事をとること、といった僕を心配してくれている内容だった。
 その手紙を見て、申し訳なく思ってしまった僕は、心配してくれたことや差し入れをしてくれたことを感謝するといったような旨の手紙を書いて、次にはやてと会ったときに、資料と一緒に渡したのだ。
 こういう形にしたのは、面と向かってお礼を言うのが気恥ずかしかったのと、ちょっとしたいたずら心だ。普段から、僕のことをからかうようなことを言うはやてに、こうした手紙を渡したらどういう反応をするか、気になったんだ。
 わざとわかりやすい位置に挟んでおいた手紙を見て、はやてはいぶかしげな顔をしていたが、僕は笑顔でごり押した。
 首をかしげながら帰ったはやては、次にやってくるときは笑顔と一緒に手紙を挟んだ資料を返してくれた。
 これが、僕とはやての文通の始まり。

「あはは。アリサってば、相変わらずなんだなぁ」

 はやてがくれる手紙の内容は、いつも決まって学校の出来事だ。足が治って、また学校に通えるようになったのが、本当にうれしかったに違いない。
 書いてある中身から、いつも生き生きとして楽しそうなのが伝わってくる。はやてにとっては、叶わないかもしれない夢だったんだろうなぁ。

「さて、お返事書いておかないと……」

 対して僕の手紙は、無限書庫の開拓状況や改めて見つけた珍しい本の内容なんかが主だった。
 一日中無限書庫の資料編纂していれば、そうなってしまうんだけれど、そんな中身でもはやては必ず返事を返してくれた。
 一度気になって、手紙で質問してみたことがあるのだけれど、その時の返事は

“こういう風に、だれかと文通するのも夢やったんですよー”

 だった。
 本当に、だれもが当たり前にできる日常が、はやてにとっては遠かったんだな、と思わせた。
 だから僕は、何か変わったことがあれば、必ず書くことにしていた。

「“親愛なる八神はやてさんへ”……」

 少しでも、はやての夢に協力してあげたかったのかもしれないし、僕のことを知ってもらいたかったのかもしれない。
 でも変わった変化は、なかなか起こらない。
 せいぜいクロノと口論した、といった内容が関の山だ。
 でも、そんな些細な内容でも必ず書いた。

「“クロノの馬鹿が、また無茶な資料請求をしてきました”……」

 はやては楽しかったことと一緒に、いやだと思ったことや悲しかったことなんかも、包み隠さず書いてくれた。
 だから僕も、包み隠さず書くことにしているのだ。

「“相変わらず、あのバカは”……」

 それ以上の理由は……ない、と思う。
 でも、正直自信はなかった。
 だって、はやてへの返事を書いているとき、なんだか胸がもやもやするからだ。

「“でも、そのぶん資料の編纂は”……」

 なぜかは、自分でもわからなかった。
 でも、このもやもやした感じは、いやじゃなかった。

「“では、お返事お待ちしております”……と」

 こうしてはやてに手紙を書いている時間は、ずっとそのもやもやした感じが続くんだけれど、とても暖かい感じがするんだ。
 だから、今日も僕は手紙を書くんだ。
 はやてからの、返事を待つために。





 今日もまた、はやてからお手紙をもらった。
 でも。

「はやて?」
「―――」

 いつもとなんだか様子が違った。
 いつもなら笑顔の彼女は、今日は落ち着きなさげに体をゆすっているし、資料や本と抱きしめているのはいつものことだけど、いつも以上に力を入れているようだった。

「―――ん」

 そのうえ、目をそらしながら資料を突き出すように手渡してきた。
 なんだか乱暴だ。

「え、ええっと」
「じゃ、じゃあね!」

 何かあったのかな?と思って声をかけようとすると、僕が何かを言うより早く、無限書庫から出て行ってしまった。
 駆け出すように。逃げるように。

「えー……?」

 僕はショックを受ける。少なからず、彼女と仲がいいと思っていただけに。
 何か、したかなぁ。
 しょんぼりしながらその日の仕事を終わらせて、いつもの部屋に帰って、手紙を読む。

“親愛なるユーノ・スクライア君へ”

 その手紙の中に、今日の彼女の態度の理由が書かれていた。

“今日――ううん、昨日、かな? いやおとといだったかもしれません。”

“なのはちゃんたちに、私たちが付き合っている噂が立っていると、聞きました”

「……え?」

“なんでも、無限書庫に出入りがある人たちは、みんなそう思ってるみたいです”

“司書の人たちには確認は取れませんでしたけど、そう思ってるかもしれません”

「いや、え!?」

“びっくりしました。私は、そんな風に思っていたわけではありませんし、”

“アリサちゃんやすずかちゃんにはひどくからかわれるし……”

「うぅ……」

“でも”

“私は、そういう風にみられるのが、いやではありませんでした”

「……え……」

“なのはちゃんたちに、教えられて初めて知ったわけですけれど、その”

“周りからそういう風にみられるのは、いやじゃなかったです”

「………」

“今こうして、ユーノ君にお手紙を書いているときも、なんだか胸がポカポカして……”

“とても、とてもうれしい気持ちでいっぱいです”

「…………」

“……って、私、何を書いてるんでしょうね! きっと、そんな噂が立ってるって言われて、興奮してるんやと思います”

“男の子とうわさになるなんて思ってもいなかったし”

「……………」

“でも、ユーノ君とそういう噂が立ってるというのは、いやじゃなかったです”

“それだけは、本当です”

“それじゃあ、お返事待ってます 八神はやてより”

“追伸・あ! お返事ゆうても、手紙のお返事ですからね!?”

 手紙には、それだけ書かれていた。
 いつものように、学校であった事が書かれているわけでもなければ、管理局であったことが書かれているわけでもなかった。
 本当に、それだけしか書かれていなかった。

「………これって」

 まるで、

「ラブレター……」

 だよね?
 誰にともなく確認するけど、だれも答えてはくれない。
 顔が熱い。
 触ってみるけど、冷えてはくれない。
 思わず確認のために鏡を見る。

「うわぁ………」

 ちょっと後悔した。すごい赤い。
 自覚した途端、また赤くなる。っていうか、人間ってこんなに赤くなるんだね。まるでリンゴだよ。

「うぅ……」

 はやての態度も理解した。そりゃ、こんなもの書いてくれば、恥ずかしさのあまり顔は見られないし、すぐに逃げたくもなるよね。
 だったら書かなきゃいいのに!?

「………でも」

 こうして、手紙をもらって。
 心臓の鼓動がひどくうるさい。
 顔は真っ赤で火を噴きそうだ。
 恥ずかしくて。
 今にも死んでしまいそうで。
 なのに。

「すごく、うれしいな………」

 胸の中は、幸せな気持ちでいっぱいだった。
 むずがゆくて、しょうがないけれど。
 今すぐこの気持ちを、何かにしたくなるほどに。

「……そうだ」

 だったら、いつも通りに手紙を書こう。
 はやてへのお返事の手紙を。
 僕は手紙を大切にしまってから、はやてへの返事を書くためにペンをとる。

「“親愛なる八神はやてさんへ”……」

 今の僕の気持ちを、はやてに伝えるために。




 どちらかといえば、はやて編への導入っていうのが正しいです。
 続けて、はやて編へゴー、なのです。

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